雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

2009.9.8 Eddi Reader at Billboard Osaka


演奏メンバー(ドラムス、ウッドベースアコーディオンウクレレアコースティック・ギター)たちと一緒にステージに出て来た女性シンガーは、「まいど」と一声。つぎに、靴を脱いだ。冠みたいな赤い花飾りと柄物のワンピースに丈の長い薄手のカーディガン。はじめて生で見るエディ・リーダーは、なんだかあまり一人前になる気のない見習いの魔女みたいだと思った。
 
歌い始めた声を聞いてびっくりしてしまった。はじめてフェアグラウンド・アトラクションの音楽を聴いたときと同じ声をしていた。伝えたいことがあふれてしょうがないかのようにアクションをまじえてその場で踊ってみたり、メロディの抑揚にあわせて蝶を追っかけるように手を動かしたりして歌う彼女は、嘘みたいに美しくパワフルで、繊細で、ノスタルジックな声をしていた。
 
フェアグラウンド以降のソロのキャリアをずっと追っていたわけではないけれど、何曲かは聴いた曲もあったし、新譜からの曲もふくめいずれもいい曲だった。けれど、やはりフェアグラウンド・アトラクションのナンバーを聴けたことはうれしかった(というか、一時は彼らの唯一のアルバム「The First of a Million Kisses」ばかり聴いていた)。会場の反応も良かったし、なによりエディ本人にとっても歌いこなれているように感じられた。あたりまえだけど、今までに何度も何度も歌ってきたのだろう、気心の知れたペットと遊んでいるように歌いこなしていた。フェアグラウンド時代の曲は、ライブ中頃に「Moon Is Mine」、入り方が唐突だった(多分、観客に「嬉しい驚き」を与えるための演出だと思う)「Perfect」。「いったん引っ込んでアンコール受けてまた出てくるのじゃまくさいから(意訳)」といってそのまま始めた「Allelujah」、そして最後に「Find My Love」だった。フェアグラウンド時代の僕のフェイバリットは「Clare」と「Whispers」で、いずれも演ってくれなかったのだけれど、それに文句を言うのは、まあ贅沢というものだろう。
 
ところで、何度も繰り返し同じ音楽を聴くことをかつては「レコード盤がすり切れるくらい聴く」とか「テープが延びるくらい聴く」なんて言ったけれど、CDとかmp3とかの場合の慣用表現って、なんかないですかねえ?
 
アコースティックなバックの演奏(まあ、そもそもそれがエディ・リーダーの音楽なんだけど)もとても良かった。リード楽器にのアコーディオンが特徴的だったけど、アンサンブルの中で聴こえるウクレレ(「ユークリェリ」てな感じで発音していた)の聴こえ方も印象的だった。全員が、歌っている彼女を自分たちの演奏によって支えることが楽しくてたまらないという感じだった。
 
終わってみると、なんだか、森の演奏会を聴いていた感じがした。それも極上の。音量やバランスの関係で難しいとは思うけれど、いっそ生音でやってくれてもよかったくらい。ともかく、とてもとても贅沢な1時間半だった。
あ、オーラスに歌ったのはアカペラによるうさぎ(うーさぎ うさぎ 何見てはねる〜)。歌詞をちゃんと憶えられなかったのか「十五夜お月さん」のところが上手く歌えなかったエディ・リーダーさんでした。