雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

Gibson L-6S


本ブログトップ写真の向かって左から2本目、一番エラソーに写ってるやつが今回のお題ですが、すでに手元にはありません。
  
シングルカッタウェイのレスポールJrをむぎゅ〜っと押しつぶして平べったくしたようなルックス。ヘッド形状もギブソンのようなそうでないような。そんな迷走期の70年代ギブソンの一端を担うギターです(おい)。同時期にはS-1、RD、マローダーなど、ビザールとも言い切れない中途半端な機種がと言いましょうか、見方を変えればユニークと言っていい機種が目白押しです。
 
で、このL-6Sですが、「サンタナが一時使っていた」「キース・リチャーズが『Hot Stuff』『Crazy Mama』のプロモフィルムで使っていた」「井上堯之氏が使っていた」と紹介されてほぼおしまい。L-6Sマスターっていないですね。ギターの評価って、結局「誰それがあの曲で使っていた」ってことが大きいのかも。上記のギタリストがいずれもナチュラルボディのものを弾いていたこともあって、写真のサンバーストをはじめとしたカラーバリエーションのものは中古相場でもそれほどの値段にはならないようです。逆にナチュラルはぼりすぎじゃないかな。まあルックスはナチュラルが一番いいと思いますが。
 
基本の仕様はメイプルボディにメイプルネック。写真のものはフィンガーボードはローズ貼りですが、メイプルのものもありました。また、初代のサーキットはピックアップの切替がダイアル式になってて多彩な音色が出せるってのが売り(レインボーサウンドなんて呼んでたらしい)だったようですが、どうやら演奏中の切替がイマイチやりにくかったようで、仕様変更後、普通の切替(フロント-ミックス-リア)になりました。もしかしたら、カルロス・サンタナは結構この機構が気に入ってて、それがPRSにつながったのかもしれないというのは僕の憶測です。
 
また、弦が裏通しだったものが(個人的にはわざわざ斜めに並べた穴が素敵)ストップテイルピースになったり、ネックのジョイントもマローダー&S-1のようなボルトオンのものもあったり、ラメ塗装のものがあったりなど、他にもちょこちょこと細かい仕様違いが見受けられるようです。そういえばビル・ローレンス謹製のピックアップもカバーが金属のものもありますね。このあたりについては、いつかマニアの人が立ち上げるであろう「L-6S Fanatic」みたいなサイトの登場までお待ちください。そんなサイト出てこないと思うけど。
 

ピックガード形状も初代からは変わってます。エスカッションも独特の形だったりして、けっこう凝ってるんですよ。
 
ところで、L-6Sの上位機種にL-5Sというのがあります。そもそもギブソンには昔からL-5というフルアコの最上位機種があって、L-5Sはそれのソリッド版ということのようです。グランド・ファンク・レイルロードのマーク・ファーナーが使ってたってことでファンの方には馴染み深いようですが、僕はちょっとよくわからないです(ついでに言うと、L-6というフルアコがあるかどうかも知りませんが)。
L-5Sのボディはおそらくマホガニーとメイプルの積層、つまりレスポールと同じ(だよね?)。70年代ギブソンソリッドギターのフラッグシップモデルにしたかったんでしょう。もしかすると、ギブソンとしては、50年代における「レスポール〜SGもしくはレスポールJr」というラインナップを、L-5S〜L-6Sという構成で70年代において形作ろうとしてたのかもしれません。
 

L-6Sに話を戻します。このギター、正面から見たイメージとは異なり、ボディは薄いです。感覚的には3cmくらいの感じ。比べるために撮った写真じゃないんでナニですが、左のレスポールJrより薄めなのがお判りかと思います。尤も、そのおかげで、メイプルボディの割には重くないです。
そもそもオールメイプルにしなきゃいいじゃん、とも言えるんだけど、そこまでしてでもサステインを稼ぎたかったんじゃないでしょうか。それに加え、ピックアップともども、エフェクター乗りのいいクセの無い音を目指していたように思います。実際に鳴らしてみても、高音寄りで硬めの音、という印象でした。それこそ、チューブアンプで鳴らしてもトランジスタアンプを通してるような音というか。ただ、その分ヌケはいいようで、CCRのGIGで使ったところ、当時のドラマー石松氏からは「いつもよりリズムギターが聴き易かった」と言ってもらえたこともありましたっけ。
 
ところで演奏してるときに気になったのがネックです。ハイポジションはやや薄いかな、という感じなんだけど、ローポジション側はそれに対してえらく丸みと太さがあります。これは絶対値として太いネックということじゃなくて、一本のギターのネックにおいて、薄い←→太い・丸い、の差に違和感がある、ということです。少なくとも僕はどうもこのハイ〜ローポジションのネック形状の変化には馴染めませんでした。もう少しロー側が薄い方が(おそらくハイ側に厚みをもたせるとボディ厚とのつじつまが合わなくなってくるんでないかなと)、ネックの握りは自然に感じると思うのですが、いかがなものか。
ボディの薄さからくるなんとなーく頼りない感じと、ネックのシェイプが気に入れば、悪くないギターだと思います。なんか偉そうなこと言って申し訳ないんですけど。
もしも、人生初めて手にするエレキギターがこれだったとしたら、文句無しに一生モノだと思います。アンプ直結でも悪くないし、エフェクターで色付けしてってもけっこう素直に音作っていけるんじゃないかと。
ただまあ、今、同じ値段払うんなら、新品のモダン系のギター選んだ方が懸命ですよね。
ううむ、悪くはないけど、今イチ「押し」が弱い。そんな感じのギターでしょうか。そんなわけで、現在手元にはありません。
最後に、愛着を持って使いまくってるユーザーの方、なんだかごめんなさい。