万作萬斎 新春狂言 2011
1月20日、19:00開演 サンケイホールブリーゼにて
毎年恒例の新春狂言です。
今年も和服で行きました。前日、久々に大島紬を引っ張り出したのですが、樟脳の匂いがキツかった。
近くの席の人は気になったかも。もしも匂いが気になってたら、すみませんでした(ここで謝っても仕方ないのだけれど)。
今回も和装の男性は他に見かけず。今年は和装の女性も少なかったとはつれあいの弁です。
入場の際、鑑賞のためのしおりがもらえるのですが、その体裁が今までのものと違ってました。
以前のしおりは、中厚口の二つ折りのマット紙に濃紺の一度刷り。シンプルかつ上品でよろしかったのですが、
今回のものはコート紙二つ折りでカラー4度中面スミ1度。レイアウトもお世辞にも上手とは言えず
安っぽい印象のものになってしまいました。少々残念です。
独吟 雪山
レクチャートーク 野村萬斎
謡初の「雪山」も毎年恒例。
今年がいつもと違ったのは、しおりが変わったことだけではなく、いつもはやや遠巻きに観ることになる我々の席が、舞台からえらく近いところにとれたこと。
座席番号にしてB-12と13は、ほぼセンターの前から2列目。こんなに近くから観られるのは初めてのことでした。
観る位置というか距離がここまで違うと、恒例の謡も全く印象が違ってきます。
萬斎さんのブレスのときの息を吸う音とか、サ行のS音の微妙な発音とかまで聴こえてきて、狂言というものがフィジカルな芸術表現であることをあらためて認識させられます。というか、今回の感想はそこに尽きます。
附子(ぶす)
太郎冠者/野村万作 主/高野和憲 次郎冠者/深田博治 後見/岡聡史
附子です、附子。狂言といえばまずこれを思い出す方も多いのではないでしょうか。
かく言う私がそうです。小学校の国語の教科書に現代語版が載ってたのです。
ある意味、定番中のど定番。イーグルスで言えば「ホテル・カリフォルニア」みたいなものだし
モーニング娘。で言えば「LOVEマシーン」みたいなものです。
「これが狂言というものだ」と言ってよいのかどうかは判りませんが、
多くの人にとって判り易く、面白いからこそ、ポピュラーな演目となっているのでしょう。
とは言え、狂言の演目として「附子」を観るのは初めてです。
途中に謡が入ったりと、国語の教科書からは省略されている部分も多いのですが(そりゃそうだ)
筋はすっかり知ってるのでなんだかゆとりを持って楽しめました。
「近づくな」と言われれば近づきたくなるし
「見るな」と言われれば見たくなるし
「食うな」と言われれば食いたくなる
人間の「業」を感じさせるというか、ヒトって数百年程度じゃ基本的には変わらないものなのですね。
席が近い故に今回初めて目についたのが、演者のみなさんの汗。
特に次郎冠者役の深田博治さんの汗がすごかった。
考えてみるまでもなく当たり前のことなんですが、今まで良くも悪くも気づきませんでした。
ところで、この猛毒であるところの「附子」。
その正体はトリカブトで、これにやられるとあまりの苦しさから
物凄く醜い表情になって死んでしまうところからその名がついたとのこと。
もちろん劇中の正体は砂糖で、猛毒だというのは主が家来二人に食べさせたくないからついた嘘なのですが
この時代の砂糖というのは、今我々がイメージしているものとは異なり水飴状のものだったそうです。
ということで、劇中では器からすくってねぶるジェスチャーとなるのですが
その時代的なニュアンスが海外では伝わりにくいため、英訳では附子の正体はHoneyとしているのだそうです。
萬斎さんは「太郎冠者がくまのプーさんになるわけで」などとも仰ってました。
素囃子 神楽
大鼓/山本哲也 小鼓/成田達志 太鼓/前川光範 笛/竹市学
これも毎年恒例…だと思います。同じ曲かどうか、自信無いです。
昨年と同じ奏者は、笛の竹市学さんだけなのですね。記録つけてると、そんなこともわかって面白いです。
個人的には、太鼓の前川光範さんが何故かツボにはまりました。
越後聟(えちごむこ)
聟/野村萬斎 舅/石田幸雄 太郎冠者/月崎晴夫 勾当/野村万作
地謡/時田光洋 深田博治 高野和憲 岡聡史 後見/破石澄元
「〜聟」と言えば、昨年の大槻能楽堂での演目が「舟渡聟(ふなわたしむこ)」でした。
あちらは酒にまつわる人間の素直すぎる欲望が肝でしたが
今回の「越後聟」は、婿入りにかこつけて、登場人物が謡や舞を披露する「目出度もの」。
筋がどうの、テーマがこうのというたぐいのものではありません。
平家にまつわる謡については、冒頭のレクチャートークでもちょっと解説がありましたが
正直よくわかりません。頤(おとがい=下顎)と踵(きびす=かかと)をつけかえて?
踵からヒゲが生えてどーのこーの?とか言ってたような?いや、間違ってると思います。すいません。
これの見所は後半。萬斎さん演じる聟の舞う越後の獅子舞でしょう。
美空ひばりの「越後獅子の歌」すら碌に知らないクセにどうこう言うのもナニですが
(この言様じたいがすでになんか間違ってるような気がしますが)
側転や跳躍などの軽業(とは言え決してアクロバティックなものではありませんが)を交えた舞を
間近で観せられたからには満足できないわけがない。
けれども一番感じたのは、そうした派手な動き等ではなく、視線の鋭さだったかもしれません。
息継ぎ。汗。動き。そして勿論、声や表情。そして視線。
殆どの人が生まれて以来当たり前のごとく持っているものを、
賞賛や金をとれるレベルに磨き上げるその行為を「芸」と呼ぶのだなと、
やはり当たり前のことをあらためて感じ入る次第であります。