雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

万作萬斎 新春狂言 2012

1月19日、19:00開演 サンケイホールブリーゼにて
今年も行ってまいりました。新春狂言。生憎の雨ゆえ平服にて観劇。和装の女性もちらほらといらっしゃいました。
会場に着くとけっこう暑いんで、もう少し軽装でもいいのかなと思うのだけれど、行きと帰りは寒いんだな。はてどうしたものか。
ところで、前回、鑑賞のためのしおりの体裁が変わってしまって残念と書きましたが、今年はA5二つ折りスミ1度刷とさらにショボい体裁に変わってしまいました。
座席はI列の22-23番。舞台正面からやや上手側のなかなか見やすい席でした。
 
独吟 雪山
レクチャートーク 野村萬斎
「雪山」、毎年聴いてるんですけどねえ。ちっとも憶わらんです。言い方を変えれば、いつも新鮮な気持ちで拝聴しております。
今回の座席だからこそ気づいたことかもしれないけれど、野村萬斎さんって、なで肩で、首が太い。なで肩については僕も少々自信はあるのですが(どんな自信だ?)、首の太さはちょっとすごい。一見、細身なのにツヤのある太い声をしているのもさもありなん、とあらためて思いました。
レクチャートークは今回の演目をざっと解説。話の中で「今までに狂言を見たことのある人」と質問したところ、会場のほとんどが挙手。全員が万作萬斎狂言のリピーターとは言い切れないにせよ、かなりの固定層をつかんでるのではないかと。
 
竹生嶋参(ちくぶしままいり)
太郎冠者/石田幸雄  主/深田博治  後見/岡聡史
 竹生島というのは、琵琶湖北部にある島で、そこに都久夫須麻神社・宝巌寺があるのだそうな。
 竹生嶋参りというのは、そこへのお参りのこと。
 ちなみに、「竹生嶋参」で検索するとgoogleさんに「竹生島参」ではないかと訂正されました。
 さてあらすじですが、無断で旅に出たと叱る主人に、竹生嶋参りをしてきたと言い訳する太郎冠者。
 とりあえず話を聞くことにした主人に対して、
 太郎冠者は、龍(たつ)、犬、猿、蛙、くちなわ(蛇のこと)が集まり、
 龍が立つ、犬が去ぬる、猿が去る、蛙が帰ると秀句(洒落のこと)を言ったと語ります。
 主は面白がるのですが、「くちなわは何と申した」と聞いたところ、太郎冠者は困っちゃって…というもの。
 今となっては死語と言っていい親父ギャグばかりなのですが、
 二人のやりとりがなかなか面白く、中盤までは楽しめました。
 なのですが、正直なところ、オチがいまひとつわからなかった。
 太郎冠者がでまかせを言ってるのがバレて主が怒って
 「やるまいぞやるまいぞ」で終わってもよさそうなものなのに。
 よかったら、誰か私たちに解説してください。
 というわけで、終わったとき、なんだか取り残された気分になってしまいました。
 
鎌腹(かまばら)
太郎/野村萬斎  女/高野和憲  仲裁人/月崎晴夫  後見/中村修
 例年は狂言は2曲で、ここは大鼓、小鼓、太鼓、笛の素囃子となるのですが、
 今年は3本立ての2曲目となります。
 個人的には今回はこれが一番面白かった。
 山仕事に行こうとしない太郎(主に仕えてる人じゃないから「太郎冠者」じゃないのね、多分)は、
 怒って鎌を振り上げる女(妻)に追い回されてるところを仲裁人に救われます。
 ところが太郎が女にやりこめられるのは自分のプライドが許さんと、
 妻の持っていた鎌で自らの腹を切ってやると言い出します。
 仲裁人はあわてるのですが、妻は「どうせ言うだけだ、勝手にしろ」と、そのまま二人とも退場。
 後半は太郎の「死ぬ死ぬ詐欺」的ひとり芝居が続きます。
 狂言の持つ(ひょっとしたら古典の持つ)普遍性のひとつに「いつの世も人って奴ぁ」ってのがありますが
 これはさらに「いつの世も男って奴ぁ」って感じです。
 威勢良く「腹切ってやらあ」とタンカ切ってみても、女将さんは相手にしないなんて、
 アカデミックな古典芸能と言うよりはむしろ落語の熊さん八っつぁんですわな。
 しかしこういう話を観ると、少なくとも中世には男尊女卑という概念は無かったのではないかという
 気になってしまうんだけど、実際どうだったんでしょうね?
 
花折(はなおり)
新発意/野村万作  住持/石田幸雄  立衆頭/野村萬斎  立衆/深田博治  立衆/中村修
                    立衆/高野和憲  立衆/月崎晴夫  後見/岡聡史
 新春公演ではありますが、花見の季節のお話です。
 寺の桜は花盛り。でも住持(住職)は、花見禁制だから誰が来ても庭へ入れるなと
 新発意(見習い僧)に言いつけて出かけます。
 当然ながらそこに花見の衆がやってくるのですが、新発意は言いつけ通りお断り。
 仕方なく花見客は中には入らず、垣根越しに酒宴を始めます。
 そうなると新発意は外の様子が気になり出して「桜にも酒をやらねば」と花見客に言い出し、
 酔ったあげくに「一人だけなら入ってもいいよ(一人で済むわけがない)」
 「土産に桜の枝持って帰りなよ」…。 みんな酒好きだよな(笑)。
 「新発意」というのは見習い僧のことで、てことはいわゆる子坊主だと思うんだけど、
 それを御年80歳の野村万作さんが演じております。
 なんだけど、この爺さん(失礼)が可愛いんだ。そこに尽きる。
 さて、酒をかわして宴が盛り上がってきたら謡や舞を披露する、というのはパターンのひとつだけど、
 正直なところ、謡や舞というのは鑑賞のポイントがいまひとつわからなくてあまり楽しめません、
 この曲も中盤の酒盛りのところでそういう展開になるんだけど、なぜだか結構楽しめました。
 ともあれ、最後は帰ってきた住持に新発意が「やるまいぞやるまいぞ」と追いかけられておしまい、と
 狂言らしく終わってくれて満足いたしました。