雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

モーニング娘。「気まぐれプリンセス」を今更ながら紹介したい

 

 
2009年10月28日にリリースされたモーニング娘。41枚目のシングル。
「リゾナント・ブルー」に始まり、「しょうがない夢追い人」「なんちゃって恋愛」を経た、高橋愛リーダー時代のモーニング娘。のひとつの到達点だと、個人的に評価している曲です。
視聴して「可愛いなあ」とニヤニヤしながら幸せな気分になれるか、というと、全くそういう要素が無いため、これがいわゆる「アイドル」の歌か?というといささか疑問ではありますが。
 
気まぐれプリンセス」といっても何のことはない、歌詞の主人公はフツーの女の子です。
恋愛に憧れてるけど彼氏はいない。アイスや映画で気を紛らわせてはいるけれど、いまひとつ満たされない。ネットで買い物をしても支払いに気を重くする。本当はもっと魅力的なはずなのに、といった歌詞です。
イントロのエスニックな旋律から耳を魅かれます。なんとなくロシア民謡っぽい感じも?ダンスはコサックダンスっぽいし。イントロに続き 「ストロベリー・フィールズ」や「ルーシー」のジョン・レノンあたりであろう中期ビートルズのヴォーカルの処理がヒントだと言う、加工された声色(判りやすく言うと「帰ってきたヨッパライ」声)で歌が始まります。ここでの「プリンセス」は中近東風。
それがイントロのフレーズとリンクするBメロを過ぎて、サビの頭でストリングスが入ると、「美しく羽ばたきな 蝶のよに」の歌詞のごとく、ファルセットも見事に西洋風に変わります。「ちょいエロ笑顔」なんて今にも陳腐化しそうな言葉選びも含め、ここの歌詞と音のマッチングも素晴しい。曲のアタマから終りまで、歌詞とメロディーとアレンジがよく合ってるんです。それも実に「歌謡曲的」に。
ここで「歌謡曲的」というのは、「あんパン」みたいな和洋折衷感覚―日本人的なミクスチャー感覚―という意味です。前述したいろんな要素が生硬にならず実に上手いこと作品化されているんですね。
 
ちょっと脱線しますが、日本のロックって、昔っから一見「自由」を標榜しておきながら、「Rockってのはこうなんだぜぇ」みたいな、ともすれば、音楽的にも歌詞の内容的にも、規範を定めてそこにはめこみがちじゃないですかね?「わかる奴にはわかる」とか聴き手を選ぶようなことを言っておきながら実態としてはえらく閉じてる。要するに結局は保守的だったり演歌的だったりしてると思うんですよね。
けれどもロックって、そもそも黒人音楽と白人文化の折衷から始まったようなもんで、つまりはミクスチャー感覚―雑食性―ってひとつのキモではないかと思うのです。自分が気に入ったものを片っ端から組合わせていって、新しい畸形を生み出す行為、などと言ったら実も蓋もないけれど、その出発点の一つであり極北がビートルズだったりするわけです。
で、こうした「実も蓋もない感じ」って、日本だと桑田佳祐忌野清志郎といった一部の人を除くと(最近の人はよく知らん)、戦後間もなく、ルンバだサンバだチャチャチャだと次々に輸入されてきた外国のリズムと、長唄や都々逸といったそれまでの大衆音楽とを折衷してきた歴史を持つ歌謡曲の方が強いというか、年季が入ってると思うわけです。「何言ってんだ」と言う方はとりあえず「お祭りマンボ」をはじめとした、初期の美空ひばりを聴いてみてください。けっこう驚くと思います。でもこういうことを続けるのって大変なんだろうな。美空ひばりもいつからか「演歌歌手」になっちゃったもんね。
 
ともかく、「歌謡曲が元来持っている雑食性が上手く作用した」と言えるこの曲を歌い踊るモーニング娘。の皆さんがまたステキ。映像を見ればわかりますが、歌ってる引きの絵にちょいちょいメンバーのアップがインサートされてるだけで、はっきり言ってそれほど凝ったものではありません。それでも映像作品として一定のクオリティを保っている一番の要素は、曲の良さはもちろんですが、何よりこの時期のモーニング娘。のポテンシャルに因ると言っていいでしょう。僕としては、この当時モーニング娘。に全く興味が無かったことが悔やまれてなりません。何しろ、この中の9人のうち、半分以上の5人がすでに卒業してしまっているんだから。 
 

 
なんでこれを今ネタにするかというと、5月19日以降は、この曲の中で歌っている残ったメンバー4人から、現リーダーの新垣理沙さん(「にいがき」だぞ。「あらがき」って読んじゃダメ。)と光井愛佳さんが抜け、道重さゆみさんと田中れいなさんの2人しか残らなくなってしまうから(5月9日現在、メンバーは12人)。なんかせめて今のうちに書いときたいなと思ったんです。
昨年、モーニング娘。は、高橋愛さんの卒業をはさんで、二度にわたって4人ずつ新メンバーを加入させ、大幅なメンバーチェンジを行いました。
メンバーの平均年齢もぐっと下がった彼女達は、ガキ臭くて素人臭くて、(かつて何度もありましたが)看板は同じでも中身は全く違う―「モー娘ってまだやってたんだ」とか「知らない顔ばっかり」とか―グループとなってしまっています。当分の間、「気まぐれプリンセス」を演ってた時期と比べればあまりにクオリティの低い状態が続くでしょうし、「気まぐれプリンセス」を演ることも難しいでしょう。
加えて、今のモーニング娘。には、他のグループと比べていわゆるアイドル的な「萌え」の要素も少ない。つまりは、時流となんかズレてる―まあこれは「LOVEマシーン」の頃だってある意味そうだったのだろうけれど―。ぶっちゃけ、客観的に見れば新メンバーの大半はアイドルとしてはそんなに可愛くないと思われます。不安要素いっぱいです。
けれども、このメンバーによって新しい「気まぐれプリンセス」のような曲が生まれるかもしれない、いやいやそれどころか「2012年にはこの子達がまさか高橋愛時代のモーニング娘。を越えるとは思わなんだ」と唸る日がいつか来るかもしれない思うと、今のモーニング娘。に全く興味を持たないというのも、なんだかもったいない気がしてならんのです。