雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

Elvis Costello "solo" at サンケイホール ブリーゼ

 

ステージのセンターにはコーヒーテーブル。その手前には譜面台。テーブルの上には喉を潤すための水の入ったペットボトルとマグカップ、それに何故だか拡声器。
コーヒーテーブルを挟んで向かって左側に5、6本のギター。その奥にクラシカルなルックスのアンプが2台。1本はナチュラルのフルアコで、1本はGibsonエレアコ・J-160。Beatles初期にJohn Lennonが使ってた、シングルコイルが始めからついてる、あれ。残りのアコースティックギターもいずれもサンバーストのもので、多分全てGibson製かと。
テーブルを挟んだステージ右側には2本のギターと椅子、それにマイクスタンド。譜面台…はあったかどうか忘れた。2本のギターのうち1本はナチュラルでこれはMartin製ではなかろうかと。
 
10数年ぶりに見るElvis Costelloのステージであります。以前に見たのは、「She」がヒットして、ベスト盤を出したときだと思うので、おそらく'99年頃ではないかと。その時は、Costelloのギター&ヴォーカルとピアノの2人だけで全曲演ってました。1曲の中でバッキングとソロがギターとピアノで入れ替わったりと、シンプルながらアレンジにもなかなか凝ったユニークなパフォーマンスだったことを憶えています。
やたらアンコールが多くって、結局(形式上の)本編よりアンコールの方が長かったような。僕の中の「Costello=変な人」という印象は、このとき刷り込まれたものです。そういえば、あの時の会場は改装前のサンケイホールだったっけ。
 
さて、御本人が出てまいりました。久々に生で見るElvis Costelloは、グレイのスーツに中折れ(正確にはポークパイって言うのか?)を被って、さすがお洒落な英国紳士といった風体。なのだが、デカくてゴツくて、くわえて顔が大きい。あれ?もっと華奢なイメージだったんだけどな。
最初に持ったギターは前述のJ-160だったけど、なんだかギターが小さいぞ。まあ、歌い始めたらたしかにCostelloだったんですけど、って当たり前か。
 
冒頭にステージのセットを細々と書いたのは、コンサートのタイトルが "solo" とは言え、途中からもう一人ギタリストが出てきて、右の椅子に座って演奏するだろうと思ったからです。ところが3、4曲目あたりか、椅子に座ったのはCostello本人で曰く「I'm a special guest」だと。まさかサポートメンバーゼロで最後まで一人でやるとは!
ところで、全く見向きもしなかった譜面台の上に置いてあったのはiPadでした。音源も入ってたのか、単なるコントローラとして使ってたのかは当然わからないけど、ちょこちょこと触ったらSEが出てたりしたので。
iPadが大活躍したのは2度目のアンコールになりましょうか。iPad操作によるオケのみの曲がありました。これがよくわからんかった。
真っ暗な中、照明はフロアセンターからスポット一灯のみで、左手に誘導灯(夜中の警備員が持ってる、赤く光るアレ)を持って、右手に拡声器をかまえて(開始前からもうひとつナゾだったアイテムはここで使うのでした)、インダストリアルっぽい音をバックにシャウトしてました。全編アコースティックなステージ中、この曲だけ異様な感じ。重要曲なのかなあ。アルバムを数枚つまむ程度で、決して熱心なリスナーとは言い難い僕らには、繰り返しになりますがよくわかりませんでした。面白かったけど。
 
そういう「薄い」リスナー向けも考慮してか、「Res Shoes」「My Aim is True」「Veronica」「She」といった代表曲はしっかり演ってくれました。あ、Beatlesの「You've Got to Hide Your Love Away」も演ってましたっけ。
もちろん、昨年出た「National Ransom」からのナンバーも。思ったのですが、そもそもこのアルバムをアピールしたいからギター1本でのライブを考えたのではないかと。それくらいどの曲も良い感じで聴けました。中でも「A Slow Drag With Josephine」は白眉の出来でした。
 
ひとつだけ気になったこと。照明が曲の展開に添っていろいろと切り替わったりしてたんだけど、どーも半拍くらい遅れてる気がしてしょうがなかったのですが。ホントにあれで良かったのかな?
 
とにかく、1曲を除き全てギターの弾き語りのみなんだけど、曲ごとにプレイスタイルやコードのポジショニング等にいろんなアイディアがあって、それによって持ち替えるギターの選択も「成程」という感じで、ずーっと魅せられっぱなしでした。弾き語りのレンジの広さを見せつけられたと言いますか。2コードの「Pump It Up」でさえローコードのジャカジャカで終わらないんだもん。
他にも、冒頭に挙げたJ-160などはデフォルトのピックアップにくわえもうひとつピックアップを後付けしたようで、2系統の出力を、それぞれノーマルのカッティングの効いた音とディストーション等のエフェクターをかけた音で聴かせたりとか、始めに弾いたカッティングをループさせてそこにソロプレイを載せたりとか、演奏スタイルがシンプルな分、これらのアイディアがかえってわかり易く伝わったように思います。
 
個人的な印象として、そもそもこの人の曲は、たとえ短い曲でも過剰というか、思いついたことを盛り込み過ぎの感があって、もうちょっとスッキリ目というか、要素を削ってほしいと感じることが多いのですが(関係ないけど、この点_楽曲の過剰さ_のみにおいて共通した印象を持ってしまうのが、岡村靖幸だったりする)、今回はシンプルな演奏スタイルと、(作曲面でも演奏面でも)過剰なアイディアが、いい塩梅で楽しめた、とても満足度の高いパフォーマンスでした。お腹いっぱいとも言いますが。