雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

芥川龍之介 「河童・或る阿呆の一生」 旺文社文庫


 
芥川本の復刻版をまとめ買いしたら、おまけのつもりか文庫本が一緒に入っていた。
 
収録されているのは、
点鬼簿」「玄鶴山房」「蜃気楼」「河童」「歯車」「或る阿呆の一生
と、芥川晩年の作といえば必ずとりあげられるものばかり。
ベタと言えばベタな一冊である。
 
中学生から上あたりの世代を読者に想定しているのか
ちょっと難しい漢字にはルビをふってあるし、
傍注もページごとにつけられている。
当然ながら現代仮名遣いに改められているのでとても読みやすい。
 
解説もとても充実している。
収録作についての解説はもちろん、芥川の来歴と年譜、
さらに「羅生門」「鼻」をはじめとして全キャリアを通じた主要作品の解題まで載っている。
芥川の短編なら2,3作収録できるボリュームだ。
ともあれ、この本を読んで芥川龍之介に興味を持った人が
芥川の作品世界を俯瞰できるだけうえ、
次に何を読もうかと思った人のためのちょっとしたガイドになっている。
 
奥付を見ると定価は120円。昭和41年初版とはいえ安い。
多少時期はずれるが、
「玄鶴山房」「歯車」「或阿呆の一生」の3篇を収録した
岩波文庫版が昭和50年代で100円だった。
それも充分安いのだけれど、収録作品数、前述した解説の充実度と
旺文社文庫版はかなりお買い得感がある。
 
ところでこの本、背表紙に図書分類シールが貼られていることからもわかるように
図書館の本、というか、東京都立農産高校の蔵書だったようだ。
ご丁寧に図書カードもついたままなのだが、どうやら誰も借りなかったようだ。
 
ともかく、芥川龍之介の入門書としてお奨めの一冊。
見つけたら、迷わず買いです。
見つけられないのが難点ですが。