雑駁記——藤沢図案制作所——

ざっぱく【雑駁】(名・形動) 雑然としていて、まとまりのないさま。「_な知識」「文明の_なるを知らず、其動くを知らず」〈文明論之概略諭吉〉

知らなかった…

練習のことばかりで本番については全く書かなかったBeat Inストーンズ・セッション大会ですが、3月16日当日はなかなかの盛況でした。
意外だったのは、ドラム・ベースのエントリーが多くて、ボーカルのエントリーが少なかったこと。
おかげで、ホストバンドのギター&ボーカル担当だった僕はあまり休むことができず、最後のいちばん盛り上がる手前で力尽きてしまいました。次回は夏頃に企画しているようなので、その時はまたいろんな人とやりたいです。
 
ところで、このストーンズセッションについて書いたときに、小声で「最近のアーカイブ商売はちょっと乗り切れない」と書いたのですが。
この時僕の言いたかったアーカイブ商売というのは、数年前に出た「Get Yer Ya-Ya's Out!」の完全版(当初企画されていたB.B.キングやアイク&ティナ・ターナーの演奏も収めたもの)とか、「Exile on Main Street」や「Some Girls」にボツテイクを加えたデラックス・エディションとか、その辺りの音盤のことを指してたつもりだったんです。
 
話はちょっと脱線しますが、僕は基本的にボーナス・トラックというのが嫌いです。そりゃまあ曲数が多く収録されてるおトク感はわからんことはないけど、アルバムをひとつの作品として考えたら(その考え方がすでに古くさいものだということは認めるのだけれど)、ボーナス・トラックってあくまで「おまけ」でしょ?例えば1曲目から15曲目まで、練られた構成で密度の高い音聴いて、最後の曲が終わった〜と思ったら、いかにも「シングルのB面(昨今はカップリング曲、と呼ぶのが正しいのだろうけど、あえて)です〜」みたいなあきらかに「抜いた」演奏が流れてくる。こういうのって、アルバムの完成度が高いほど逆にそれをスポイルするものにしかならないと思うんだけどな。
とくに、10曲なら10曲の構成ですでに作品として出来上がっててそれが定着しているレコード時代のものはなおさらだと思うんです。また例えばですが、ビートルズの「Abby Road」。あれの「Her Majesty」のあとに「Octopus Garden」のデモテイクとかアウトテイクがのほほんと始まったりするのは、やっぱ良くないと思うんだよな。事実、ビートルズのCDはそういうことは一切してない筈です。
で、まあ、ストーンズもCD時代に入った以降のもの以外は、かたくなにボートラ無しでいたんですが、このところちょっとその気概が薄れてきたようなんですね。まあ先に書いたアルバムはいずれも「おまけはおまけ」ということか、本編とは別ディスクになってる点に作品に対する良心を感じないわけではないんですけど…。
 
ともかく僕はこれらの「おまけがついて新登場」商品とか、「Some Girls: Live in Texas 78」「Ladies & Gentlemen」とかの過去のライブ映像の正規リリース(「Ladies & Gentlemen」はもともと正規映像ですが)に、ちょっと乗り切れないところがあったんです。「ブートレグの音源を自分達で出してどーすんだよ?」みたいな。いや、この認識が間違ってるのはわかってるんです。ブートレグで出回ってるからって、音源の権利がブート業者にあるわけないんだから。でも、ねえ。この手のボツテイクとか未発表ライブとかお宝音源とかって、アーティストが死ぬかバンドが解散した後のボックスセットとかで出るもんじゃないですか?なんか、生前に遺産の処分してるみたいっつーか、自分達のキャリアの「閉め」に入ったような気もしないでもないんですよね。
 
とは言え、これまで正規に発表されていないものの中で、「なんでこれ出さなかったかなあ」と大きなお世話的に思わされる音源があることも事実です。特にミック・テイラー在籍時の1972年のアメリカツアーと1973年のヨーロッパツアーの演奏は、好事家の中には「この頃のストーンズが最高だ」と言い切る人も少なくない程評価が高く、実際、一般的なストーンズ像からするとびっくりするような演奏も多いんです。というか、僕はこの時期の「Midnight Rambler」と「Street Fighting Man」を初めて聴いた時はひっくり返りました。スタジオ盤で言うと「Exile on Main Street」と「Goats Head Soup」にあたるんですが、「Exile〜」のスワンプを意識したラフさとも、「〜Soup」のクールさとも違う、あるいはそれら異なる路線を融合してさらにエキサイティングにしたようなストーンズの演奏が聴かれるんです。
にもかかわらず、映画「Ladies & Gentlemen」以外は正規発売されたものは皆無で、これすら昨年にあらためて公開&発売されるまではブートのビデオテープやDVDを探さないとお目にかかることができなかったのだから、フツーにストーンズに興味があるくらいではまず聴くことは無い演奏だったわけです。これがある意味ではローリング・ストーンズというバンドの評価において、ブートレグを漁ってまで聴くくらい好きな人と、そうでもない人とのギャップの一因ではないかとも思ったりしてたくらいで、つまりは「なんでこれ出さなかったかなあ」と言うしかないわけです。
とりわけ1973年10月17日ブリュッセル公演ファースト・ショー(当時は1日2回公演の日もあった!!)の演奏が放送されたラジオ音源(「THE KING BISCUIT FLOWER HOUR」という番組で、1978年ものや1981年ものなど、この番組で放送された音源を元にしたブートは他にもあります)をレコードにした「Nasty Music」というブートレグは、演奏良し、音質良しで、ストーンズ海賊版業界の最高峰として永きにわたって君臨し続けたのでした(ちなみに全曲ブリュッセル公演の演奏ではなく、一部は9月28日のロンドン公演のものとのこと)。
先ほど書いた、演奏を聴いてひっくり返った2曲というのもこのいわゆる「Nasty音源」のものです。ただ僕がこれを初めて聴いたのは20年ほど前のNHK-FMのラジオ放送でした。渋谷陽一氏と佐野元春氏の両名がパーソナリティだった、と言うと思い出す人もいるんじゃないかな?
 

これが「Nasty Music」 多分、この"レコード"の"価値"を知らない人には意味不明のジャケットデザイン。ところが、ストーンズ好きにとっては、ある意味"最高傑作"のアイコンであり続けたのです。
 
 
「Nasty」とほぼ同じ内容で同じく評価の高かった「Bedspring Symphony」と「Nasty」の音質がアップしたという触込みで登場した「Europe '73」。いずれも40年前とか30年前とかの話ですが。
 

「BRUSSELS AFFAIR 1973」 CD時代になって登場した「Europe '73」のコピー盤。と言ってもレコードを再生してダイレクトに録音しただけなので、注意深く聴くと針音まで聴こえる、らしい。僕は気にしたことは無いですが。
 
で、やっと今日のお題になるんですが、まさかこんなことをやってるとはつい先日まで知りませんでした。
 

正規音源なのです。でもってタイトルが「THE BRUSSELS AFFAIR」!
 
どうやら昨年末ごろからROLLING STONES ARCHIVEというのが始まってたそうで、そこで何と「ブートレグの正規アイテム化」が行われてたのでした。
なんでamazonからお知らせが来なかったんだろうと疑問だったのですが、amazonでは扱ってないようですね。なんかgoogle音楽配信と関連したサービスらしくてWeb配信のみの商品(?)のようです。僕はiTune Storeはじめmp3配信サービスは一切使ったことないからこの辺りのことはよくわかりません。
まあともかく、演奏面ではミック・テイラー期のピークが収められた「Nasty音源」がmp3なら7ドルで聴けちゃうわけです。14・5年前かな、西新宿のいわゆるブート街にあるレコード屋で、その「Nasty」と原盤が同じでタイトル・ジャケット違いという触込みのレコード(おそらく「A Tour De Force」ってやつだと思う)が10万円で売られていたのを見たことがあるのですが、その頃からするとえらい時代ですわなあ。まあレコードが10万円で売買されるというのもえらい時代ではありましたが。
 
しかも今回正規版になるにあたって、"あの"ボブ・クリアマウンテンがリミックスをしたそうで、つまりはもうなんと言うか、めちゃくちゃ音が良いに決まってるんであります。ボブ・クリアマウンテンという'80年代を代表するミックス・エンジニアについてもいろいろ言いたいことがあるんだけど、もうここまででかなりダラダラと長くなってるんで、それはまたいつか。
 
ともかく、こうなると「ブート音源を正規版にするなんてどーたらこーたら」なんて言ってられません。我ながら現金なものですが、目の前に好物ぶら下げられたら人間こんなもんです。
で、じっくり聴いてみましたよ。おじさんに色塗ったり地面作ったりしながら。
 
 
おじさんと地面
 
「あれ?演奏違うな」
ろくに聴きもせず「Nasty音源」と書きましたが、どうも違うような。1曲目の「Brown Sugar」は前述のブートと同じ演奏だけど、2曲目の「Gimme Shelter」からいきなり違う。あら、「Starfucker」入ってるじゃん。「Dancing With Mr.D.」もどれもこれも俺の耳で聴いても違うと判るぞなんだかんだ。
で、マニアの方々の記事や書込み等を見たところ、正規版の「BRUSSELS AFFAIR」は、同じ日のブリュッセル公演ではあるものの、収録曲のほとんどがセカンド・ショーの音源なんだそうです。そのうえ「All Down The Line」なんかは、ミック・テイラーのギターにトラブルがあったらしくわざわざファースト・ショーの音を当てた修正版(ファースト・ショーの音使えばいいじゃんと言う意見もありますでしょうが、これはこれでバンドがトチってるんだよね)。ちなみにファースト・ショーからの演奏は「Brown Sugar」「Midnight Rambler」「Street Fighting Man」で、このうち「Nasty」収録の「Street Fighting Man」はロンドンのものなので、「Nasty」に大金ぶっこんだ方々、ダブリが少なくてよかったですね。いやまあ、そういう僕も「BRUSSELS AFFAIR 1973」はじめ、ブリュッセルものは幾ばくか金つっこんでますんで、ちょっと安心というか。
 
細かい音源についての話はともかく、やはりこれは、ライブ盤("盤"じゃないけど)としても素晴しい。
近年の、サポートメンバーに介護されてなんとか演奏のクオリティを保ってるあのバンドと同じ人たち(特にギター担当の人)とは思えない。もちろん当時と最近とでは年齢はじめいろんな状況も違い過ぎるんですが。
なんせミック・ジャガーも頑張ってるけど、この時期のキースのリズムギターが素晴しい。1972〜73年の「Gimme Shelter」でゴリゴリとコードを刻むテンションの高さが好きな者としては、近年の(またですが)「Gimme Shelter」や「Sympathy for The Devil」なんかに見られる、気分次第でオブリを入れるスタイルがどうも好きになれないのですよ(これはこれで味わい深いとこもあって、プレイスタイルとしては一概に嫌いと言い切れないのが悩ましい)。ともかくエネルギッシュでエレガントな演奏が、クリアで適切なバランスの音で聴けるんだから良くないハズがないです。
しかしまあこれホント音いいわ。ボブ・クリアマウンテンという人は、言ってみれば「レイアウトが超絶に上手いデザイナー」みたいな人で、どの要素もクッキリ強調してるのに全体感を損ねることなくまとめるのが滅茶苦茶上手い。ストーンズ関連は80年の「Tatoo You」以降は、主にライブ盤のミックスばかり携わってますが、ここでは正に本領発揮といった仕事をされています。
いずれにしても絶頂期のストーンズの演奏が超高音質で聴けるのは大変喜ばしいことです。しかも安価で。
 
さらにこのブート駆逐企画、すでに1981年のアメリカ・ツアーと、ロン・ウッドがゲスト参加した1975年ツアーのものがすでにリリースされてます。
 

81年のやつは「ギター デ ナグル」のハンプトンだって。これはThe Swinging Pigというレーベルが出した、綺麗なボックスに収められた2枚組名作ブート。私も買いました(泣)
 
 
こちらが「Stones Archive」の正規版。
 
その上このシリーズ、全部で6作まで続く予定だそうな。
「ブライアン期の演奏もぜひ」とか、「やっぱエル・モカンボ完全版を聴きたい」とか、なんかいろいろ期待してしまいます。いやあ今回はクソ長くなったな。しかも勢いで書き飛ばして長いだけで資料性もゼロ。ホントすいません。ともかく安いんでみんなダウンロードして聴きましょう。ステマじゃないよん。